【2026年】通信キャリアのクラウドネイティブが成熟期へ突入、ネットワークAPI活用で新たなビジネス創出期待

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日本の通信業界が大きな転換点を迎えています。2025年12月16日に開催された「Cloud Native Telecom Operator Meetup 2025」(CNTOM 2025)では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど主要通信事業者の技術者が一堂に会し、クラウドネイティブ技術の現状と未来について熱い議論を交わしました。特に注目すべきは、これまでの「導入」から「運用の成熟化」へと重心が移り、さらにネットワークAPIによる新たなビジネスモデル創出への期待が高まっている点です。この変化は、通信業界全体のデジタルトランスフォーメーションが新たな段階に入ったことを示しています。

クラウドネイティブ普及の現状と成熟化への転換点

株式会社企(くわだて)のクロサカタツヤ氏による基調講演では、テレコム業界におけるクラウドネイティブの話題が数年前と比べて減少している現象について興味深い分析が示されました。これは技術への関心が薄れたのではなく、むしろ導入関連の盛り上がりが一段落し、運用の成熟化に重心が移ったためだと指摘されています。

この現象は、クラウドネイティブが工業化(Industrialization)の段階に入る準備期間であることを意味します。具体的には、運用自動化の進展やSA(スタンドアローン)に乗るトラフィックの効率化など、新たな尺度でテレコム業界におけるクラウドネイティブ化の進展を評価する必要があります。SAとは、コアネットワークの設備から基地局までをすべて5G専用の技術と設備で構成することで、真の5Gサービスの実現を可能にする技術です。

また、クロサカ氏は現在のAIブームについても言及し、AIデータセンターへの投資がバブル的状況にあることを警告しました。自著「AIバブルの不都合な真実」を引き合いに出し、ハルシネーション(AIが一見正しそうなのに間違った答えを出してしまう現象)などの課題を指摘。自動運転やフィジカルAIなど高い信頼性が求められる用途には、まだ技術的な進化や学習のための高度で信頼性の高いデータが不可欠であると強調しました。

ソラコムが示すクラウドネイティブ実装の最前線

CNTOM 2025で特に注目を集めたのが、株式会社ソラコムの福田守昴氏による「MVNOサービス基盤のクラウドネイティブアーキテクチャとAI Opsの取り組み」に関する講演でした。同社はフルMVNO事業者として、IoT SIMを提供する「SORACOM Air for Cellular」を2024年7月時点で800万回線以上、213カ国で利用可能な規模まで成長させています。

ソラコムの革新的な点は、モバイルコアネットワーク基盤とサービスをAmazon Web Services(AWS)上にクラウドネイティブなアーキテクチャで構築し、マルチリージョンにスケール可能としている点です。特筆すべきは、ユーザーのデータ通信を扱うPゲートウェイ(Packet Data Network Gateway)において、ステートレスサービスとステートフルサービスを分離している設計です。

この設計では、パケット処理を行うUPF(User Plane Function)などの通信アプリケーションをステートレスサービスとして動作させることで、障害などでアプリケーションが突然終了した場合でも再起動すれば条件なしにシステムに復旧できる高い可用性を実現しています。一方、再起動後も保持すべき情報(ステート)は、AWSのAmazon S3やDynamoDBなどの堅牢性が担保されたサービスを抽象化したAPI経由で利用するステートフルサービス側に格納されています。

さらに注目すべきは、SORACOMのPゲートウェイが採用している2層構成です。Sゲートウェイ側(Tier 1 P GW)とインターネット側(Tier 2 P GW)に分離することで、従来のモバイルコアネットワークの制約(特定のインターフェース数によるスケール限界)をTier 1に限定し、Tier 2を自由にスケールさせることを可能にしました。この構成により、N×M通りのパスが存在し、ユーザーセッションはこれらのパスに分散マッピングされるため、特定のインスタンスが故障しても別のパスを選択することで通信途絶を避ける柔軟な冗長性と復元性を実現しています。

AI Ops導入による運用効率化の具体的事例

ソラコムの取り組みで特に興味深いのは、AI Opsの実装事例です。同社は2つの主要なAI活用ツールを開発・運用しています。第一に、AIと対話することでAWSコマンドを実行できる「AWS MCP Server」を活用して、開発時のリソース構成確認やデプロイ手順のドラフト作成を行っています。この際、セキュリティ確保のため、AIに与えるAWSのIAM権限は最小限に抑制されています。

第二に、AIを活用したエスカレーションツールの導入です。このツールは、アラートの概要やSlack上でのやりとりを入力するとAIが障害内容を要約したメッセージを作成し、協力パートナーへのエスカレーションメールを自動作成します。Slackボットとして実装されており、アラート情報やエンジニアの会話を基に迅速なエスカレーションをサポートする仕組みとなっています。これらの事例は、通信事業者における運用自動化の実践的なアプローチとして、業界全体に大きな示唆を与えています。

主要キャリア各社のクラウド活用状況とハイブリッド戦略

CNTOM 2025では、主要通信事業者の技術者によるパネルディスカッション「どこまで活用できるかハイブリッドクラウド・パブリッククラウド」が開催され、各社のクラウド化戦略の実情が明らかになりました。NTT朝比奈氏をモデレーターに迎え、F5ネットワークス、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの技術者が参加しました。

NTTドコモの宮本氏は、同社が非通信分野を含め積極的にパブリッククラウドを利用しており、5Gコアをクラウドに載せるPoC(Proof of Concept:概念実証)にも取り組んでいると報告しました。一方、KDDIの大野氏は、業務支援関連のシステムなどではパブリッククラウドを積極活用しているものの、コアネットワーク機能はオンプレミスが中心であると回答しています。

ソフトバンクの久保氏、楽天モバイルの外山氏も同様に、コアネットワークでのパブリッククラウド導入は限定的で、運用系システムでの活用が中心となっていることを明かしました。このパネルディスカッションから浮き彫りになったのは、通信事業者各社がリスク管理とコスト最適化のバランスを取りながら、段階的にクラウド化を進めている実情です。特に、通信の根幹となるコアネットワーク機能については慎重なアプローチを取りつつ、業務系システムや新サービス開発においてはパブリッククラウドの利点を積極的に活用する戦略が共通していることが確認されました。

ネットワークAPIがもたらす新たなビジネスチャンス

CNTOM 2025で最も将来性が期待される話題として挙げられたのがネットワークAPIです。クロサカ氏は、今後クラウドネイティブを基盤に通信事業者がそのネットワーク機能を外部に提供する「ネットワークAPI」によるサービスの拡張を通じて、キャリアビジネスやユーザーの文化を変えていくことが期待されていると述べました。

ネットワークAPIとは、通信事業者が持つネットワーク機能(帯域制御、位置情報、認証機能など)を、外部の開発者や企業がAPI経由で利用できるようにする仕組みです。これにより、これまで通信事業者内部でのみ利用可能だった高度なネットワーク機能を、様々な業界のアプリケーションやサービスに組み込むことが可能になります。

特に注目すべきは、2026年3月にスペイン・バルセロナで開催される世界的な見本市「MWC Barcelona」(Mobile World Congress Barcelona)では、このネットワークAPIが注目されると同時に、クラウドネイティブの有用性を見極める重要なポイントになると予測されている点です。この国際的なイベントでの動向は、グローバルな通信業界のトレンドを占う重要な指標となるため、日本の通信事業者にとっても戦略策定の参考となる重要な機会となることが期待されています。

AIから見た分析

短期的影響:主要通信キャリアは2026年前半にかけて、コアネットワークのクラウド化PoC拡大と業務系システムのパブリッククラウド移行加速が予想される。MWC Barcelona 2026でのネットワークAPI動向が各社の戦略決定に大きく影響し、新サービス開発投資が活発化する可能性が高い。

中長期的影響:2027年以降、ネットワークAPIエコシステムの成熟により、通信事業者の収益構造が従来の通信料金中心から、API利用料やプラットフォーム手数料を含む多様なモデルに変化。クラウドネイティブ技術の工業化により、新規参入障壁が下がり、通信業界の競争構造が根本的に変革される。

読者への示唆:通信関連企業は今すぐネットワークAPI活用の具体的ユースケース検討と、クラウドネイティブ運用体制の強化を開始すべき。IT企業は通信キャリアとのパートナーシップ構築とAPI連携サービス企画を急務とし、投資家はMWC Barcelona 2026での発表内容を注視してテレコム関連銘柄の投資判断を行うことが重要。