【2026年】ITエンジニア本大賞発表、生成AI・エンジニア育成・コード設計が三本柱に
ITエンジニアが投票によって選ぶ「ITエンジニア本大賞2026」の結果が発表され、今年の技術トレンドと現場のニーズが鮮明に浮かび上がりました。翔泳社が主催するこの賞は、出版社を問わず技術書・ビジネス書全般を対象とし、「仕事の役に立った本」「初学者におすすめの本」「ずっと手元に置いておきたい本」という観点からITエンジニアがWeb投票で選出する権威ある賞です。今回の受賞作品を分析すると、生成AI・AIエージェント技術、エンジニア育成・マネジメント、そして持続可能なコード設計という三つの分野に集中しており、現在のIT業界が直面する課題と今後の方向性を明確に示しています。
生成AI時代を反映したAIエージェント技術書の台頭
今回の技術書部門で特に注目されるのは、AIエージェントに関する書籍が複数選出されていることです。「AIエージェント開発/運用入門[生成AI深掘りガイド]」と「現場で活用するためのAIエージェント実践入門」の2冊が受賞しており、これは2023年のChatGPT登場以降、急速に実用化が進むAI技術への現場エンジニアの強い関心を物語っています。
前者は基礎の基礎から丁寧に解説する本格入門書として位置づけられ、AIエージェントの作り方や実際の活用事例に加え、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)についても詳しく解説しています。特に注目すべきは、開発後の運用フェーズであるLLMOps(Large Language Model Operations)の技法についてもLangfuseを用いて実践的なレベルまで解説している点です。これは単なる理論書ではなく、企業の開発現場で即座に活用できる実用書としての価値を持っていることを示しています。
一方、後者は電通総研、Algomatic、ジェネラティブエージェンツといった実際にAIエージェント開発に取り組む企業の事例を含み、ヘルプデスク、データ分析、情報収集、マーケティングという具体的な業務領域でのAIエージェント構築方法を網羅的に学べる構成となっています。これらの書籍が選出されたことは、AIエージェントがもはや研究段階を超え、実務レベルでの導入が本格化していることを明確に示しています。
深刻化するエンジニア不足を背景とした育成・マネジメント書の重要性
技術書部門で「エンジニア育成現場の『失敗』集めてみた。42の失敗事例で学ぶマネジメントのうまい進めかた」が選出されたことは、現在のIT業界が直面する深刻な人材不足問題を反映しています。この書籍は、技術の指導や業務の割り振りだけでは解決できないエンジニア育成の複雑さを、42の具体的な失敗事例を通じて解説するアプローチを採用しています。
人材不足の開発現場において「エンジニアをいかに育成するか」は重大なテーマとなっており、従来の技術的指導だけでは不十分であることが明らかになっています。エンジニア育成には、ソフトウェア開発と同じかそれ以上に繊細で複雑なマネジメントの力が求められるという認識が、現場レベルで共有されていることがこの選出から読み取れます。
失敗事例を集めた構成は、成功事例中心の従来の管理手法書とは一線を画すアプローチです。実際の現場で起こりがちな「落とし穴」を事前に知ることで、同様の失敗を回避し、より効果的なエンジニア育成を実現できるという実用的な価値が評価されたものと考えられます。これは、理論よりも実践、成功体験よりも失敗からの学習を重視する現代のエンジニアリング文化の変化を表しているとも言えるでしょう。
持続可能な開発を実現するコード設計技術への注目
「改訂新版 良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門 ― 保守しやすい 成長し続けるコードの書き方」と「Tidy First? ― 個人で実践する経験主義的ソフトウェア設計」の選出は、現代のソフトウェア開発において持続可能性と保守性が最重要課題となっていることを示しています。
前者は、より成長させやすいコードの書き方と設計を学ぶ入門書として、システム開発で頻発する問題を具体的に指摘しています。コードの可読性が低く調査に時間がかかる、コードの影響範囲が不明で変更すると動かなくなる、新機能を追加したいがどこに実装すればいいかわからない、といった課題は多くの開発現場で共通して経験される問題です。「変更しづらいコードは、成長できないコード」という指摘は、ビジネスの進化への追随や機能の改善が困難になるという現実的な問題を端的に表現しています。
後者は、エクストリームプログラミングの考案者で、ソフトウェアパターンの先駆者であるケント・ベックによる著作です。コードを読みやすくするための「整頓」について、いつどこで実施するのが効果的かを解説しています。整頓を一気に習得するのではなく、少しずつ試しながら自身の課題解決につなげるという経験主義的なアプローチは、現場での実践可能性を重視した現代的な手法と言えます。
基礎技術と新領域への幅広い学習ニーズ
受賞作品には、AIやマネジメントといった最新トレンド以外にも、IT業界の基盤となる技術分野の書籍が含まれています。「図解入門TCP/IP 第2版」は、ネットワーク技術の定番入門書が最新情報を盛り込んでパワーアップした改訂版として選出されました。特にWi-Fiやセキュリティ関連の解説を大幅に強化しており、基礎技術でありながら常に進歩し続ける分野への対応が評価されています。
セキュリティ分野では「実践サイバーセキュリティ入門講座」と「ハッキング・ラボのつくりかた 完全版」が選出されており、理論だけでなく実際に体験しながら学べるハンズオン形式のアプローチが重視されていることがわかります。前者は「Blue Team Labs Online」(BTLO)というプラットフォームを活用し、環境準備の障壁を減らして誰もがサイバーセキュリティを体験できる構成となっています。
また、「ことばの意味を計算するしくみ 計算言語学と自然言語処理の基礎」の選出は、ChatGPTで周知となった自然言語処理技術への深い理解を求める声の高まりを反映しています。哲学・数学・論理学から「ことばをサイエンスする」計算言語学と、実用的な自然言語処理技術との架け橋となる教科書として、基礎から最先端までを妥協なしに解説する姿勢が評価されています。これらの選出は、ITエンジニアが単一の専門分野に留まらず、幅広い技術領域への学習意欲を持っていることを示しており、技術の融合が進む現代において、多角的な知識習得の重要性が認識されていることを物語っています。
短期的影響:AIエージェント開発需要の急増により、関連技術者の市場価値が大幅に向上し、企業は実践的なAI人材確保に向けた投資を加速させる。同時に、エンジニア育成の重要性が認識されることで、マネジメント研修や失敗事例を活用した教育プログラムの導入が進む。
中長期的影響:持続可能なコード設計への注目が高まることで、技術的負債を抱える企業とそうでない企業の競争力格差が拡大し、業界全体でコード品質への投資が標準化される。また、基礎技術とAI技術を併せ持つT字型人材が主流となり、従来の専門特化型からマルチスキル型への人材像転換が加速する。
読者への示唆:企業は受賞書籍を活用した社内勉強会や技術書購入支援制度を導入し、特にAIエージェント開発とエンジニア育成の両面で人材投資を強化すべき。個人エンジニアは、自身の専門分野に加えてAI技術とマネジメントスキルを段階的に習得し、市場価値向上を図る必要がある。


